2005年3月 入管業務を始めたい(申請取次)行政書士への呼びかけ
(入国管理局との信頼関係構築のために)

愛知県行政書士会 国際業務部会 副部会長、 行政書士入管手続研究会 会 員

田 澤   満     
 
 我々行政書士は、平成元年に入管申請取次ぎ(当時は法務大臣承認。現在は地方入国管理局長の承認)を付与され、入管業務に参入致しました(弁護士参入の法改正は平成16年12月)。 しかし残念なことに、一部の行政書士の行為によって、いまだ我々行政書士が、入国管理局の方々から全面的なご信頼を頂いているとは、到底 言えません。

 行政書士の業務でも、例えば 建設業許可業務など、都道府県によっては経営事項審査を行政書士会に一任されているほど ご信頼を頂いているのに対し、行政書士(行政書士会)と入国管理局との関係は、まだまだ発展途上にあります。 こうした状態を少しでも改善したく、このページをつくりました。下記内容につき、ご賛同頂ければ 幸いです。

入管業務を扱う上で 気をつけて頂きたいこと(ブローカー案件)     本人申請で多く出される 在留資格該当性が全く無い申請について



*入管業務を扱う上で、気をつけて頂きたいこと

 昨今、入管への申請取次を行う行政書士の中で、問題ある案件(偽装結婚、架空の会社・店舗での認定証明書交付申請や期間更新申請、実際の職場と違う就労場所での申請等々)に関わってしまい、入国管理局より『呼び出し状』を受けているような方が、増えております。入管業務に携わる一行政書士として、とても残念な話です。

 私は、これらの行政書士さんを一部個人的にも存じ上げておりますが、彼らについて共通点を見出すことが出来ます。まず言えることは、入管業務の営業に大変熱心な若手行政書士さんであること、また、その行政書士ご本人に「悪い案件に積極的に関わるような意思」が全く無く、“悪気が無い”こと などです。つまり、本人が入管に出頭しなくてもいい『入国管理局申請取次』を、第三者(外国人・日本人の紹介者・ブローカー等)にうまく利用されてしまっているようなケースです。もちろん、偽装結婚に積極的にブローカーとして関わり逮捕されるような不埒な行政書士もおりますが、こうした、犯罪行為と認識しつつ自分から積極的に関わっているような人間(遵法意識が無く、カネのことしか考えていない行政書士)のことではなく、まだ若く、入管業務に純粋に取り組んでいるような、将来有望なはずの行政書士さんであり、この点、入国管理局の方々も困惑しているようです(入管のある就労部門審査官の方が、「そのお若い行政書士さんご本人には全く悪気が無く、完全に利用されてしまってるんですよねぇ…」と言っておられました)。

 以下の話は、実際に入管業務をされている行政書士の方でないと、ちょっとイメージしづらいかも知れません。
行政書士のうち、入管業務に関する研修を受けた者は、『入国管理局申請取次者』となることが出来ます。勘違いしている人が多いのですが、この『入国管理局申請取次者』は、なにも行政書士だけがなれるものではありません。外国人を雇用している企業、派遣(請負)会社、学校(日本語学校、専門学校、大学)、旅行会社、国際研修協力機構のような特殊法人…まだまだあります。

 私は、今は アジア、欧米諸国出身者の方々の就労ヴィザ、結婚ヴィザに関わる入管手続や在留特別許可嘆願手続が入管業務のメインであり、日系人(南米出身者等)に関わる入管業務はほとんど行っておりませんが、開業当初は ブラジル他日系人の方々の申請取次ぎも行っておりました。開業まもない頃、どういう訳か南米某国の日系人の案件を、しかもよくわからない人から紹介されました。後でわかったことですが、その紹介者たちも実は入管から申請取次をもらっている派遣会社の社員で、安全な(偽造などが少ない)日系ブラジル人たちの手続は自分たちで取り次ぎ、他の某国のうそ臭い日系人の仕事はこちら(行政書士)に回してくる ということだったのです。南米日系人についていえば、派遣会社で登録して働いている人が多く、派遣会社の申請取次者が入管手続を代行したりしています。南米の人の多くは『日系人とその関係者』ということで扱いは『準日本人』に近くヴィザの手続も簡単なため、彼ら 派遣会社の社員でも、充分にこなせるのです。

 ただ、日系人に関わる業務は、アジア諸国他出身者に関わる一般案件(就労ヴィザ、結婚ヴィザ等)に比べれば、はるかに安全だと思います。何故なら、工場などで働く人が多い日系人には、工場勤務を休みたくない(皆勤手当がもらえるから)という理由で頼んでくる人が多く、『何か大きな問題があるから頼んでくる』人は少ないからです。また、一度入国を許可されているような人は、そもそも『日系』という生まれつきの条件により日本在留を許可・認められている訳で、審査も日系であるかどうか がポイントになります。つまり『準日本人』といった扱いであり、日本在留中に事情が変わり更新が許可されない などということは、通常あまり無い話だからです。従って、日系人を相手とする場合には、お持ちの『入国管理局申請取次証』をフル活用して頂き、どんどん『取り次ぎ』して頂いても(入管へ代わりに持って行っても)、さほど問題は無いと思います。


 以下、“日系人業務とは全く違う”、主としてアジア諸国の人たちに関わる入管業務(就労ヴィザ、結婚ヴィザ、留学・就学等)につき、注意点をご説明致します。

 残念ながら、この分野における入管業務の、行政書士のシェア・実績はまだまだ低く、一方、多くの国籍の在日外国人には、入管に関わるブローカーさん(自称コンサルタント業)が沢山おります。よく、『通訳』などと称して入管へも来ており、『本人申請』のスタイルで自国の外国人の申請を手伝っています。
 真に残念な話ですが、永住権を取った後ブローカーになってしまうような外国人は沢山います。中には、永住権を取ったり 日本人の配偶者になった途端、人が変わってしまったような人もいます。また、お店や会社を経営しているような外国人で、副業のビジネスとして、国際結婚紹介等を行う外国人(日本人も)も多いです。もちろん、まともなビジネスをしている人も多くいらっしゃいますが、中には偽装国際結婚の仲介や、実態が無かったり、つぶれそうな会社・お店での人材招聘手続等を行い、自国の人間から多額のカネをせしめているような人間もいます。
 彼らのビジネス上の強みは、日本語と母国語の両方を自由に操り、自国の社会や、在日自国民たちの状況を把握していること。また人にもよりますが、自国でのコネがあること などです。逆にネックになることとしては、まず、入管へ自分で申請案件を持って行ける資格(申請取次)を持っていないこと、そして、ここが重要ですが、彼らが特に違法な、ある種の案件を扱おうとする場合、本人を入管へ行かせると“ウソがばれてしまう”(例えば『偽装結婚』なども、入管のベテラン職員が本人たちと直接会って話を聞けば、すぐに『偽装結婚』と見抜かれてしまう場合が多いでしょう)ことです(註:本来、ブローカーが扱うのは『本人申請』のかたちのものの方が圧倒的に多いのですが、こうした「本人が行くとばれてしまうような偽装結婚」、「『人文知識・国際業務』のヴィザを虚偽で取得したが実際は日本語も全くわからない単純作業従事者」などといったケースでは、『本人に行かせる』よりもいい と考えているようです。『本人申請』のスタイルで虚偽申請が多く出されている事実については、後述します)。

 ともあれ、こうした 実質ブローカーのような外国人(または会社)のところへ、前述のようにまだ若く、入管業務を やりたくて やりたくて しょうがないような 新人行政書士さんが、営業に行ったらどうなるでしょう…?

 下記の情景を思い浮かべてください。


 新人行政書士の鈴木さん(仮名)が、悪い人とは知らずにそういう外国人(または会社)のところへ営業に行きました。 目をキラキラと輝かせて、彼(彼女)はこう言います。
「はじめまして! 行政書士の鈴木と申します! 私は入国管理局から、『入国管理局申請取次者』という『免許』をもらっている行政書士です! 外国人の方も 私に依頼すれば、入国管理局へ出向く必要がありません!」

と、ここで鈴木さんは、入管からもらった『申請取次証のカード』をさっと取りだし、水戸黄門の印籠のごとく、相手に見せます。

「去年登録したばかりの新人ですが、ガッツだけは誰にも負けません!! お困りのことがございましたら、何でも申し付けてください!!」


 これを聞いた某外国人のAさん(仮名)は、兼ねてより自分がブローカーとして関わっていた 偽装国際結婚の仲介や 実体の無い会社、つぶれそうなレストランなどを使っての認定証明書交付申請(調理師や通訳等の呼び寄せ)や更新許可申請偽造証明書類などで準備した申請 等について、自分が入管へ持って行くのは、そもそも おかしいし(申請権者ではない) やばい。かといって本人に持って行かせると、すぐばれてしまいそうだし…」と考えていました。 そこへ、新人行政書士の鈴木さんが、わざわざ自分から営業に飛び込んで来てくれたのです。
 彼は心の中で、こうつぶやきます。
  「しめしめ… 鴨がネギしょって泳いできたわ…

 しかし、既に日本での在留も長く、海千山千になっているAさんは、“内心飛び上がるほど嬉しいのですが”それを顔には出しません。

「ふ〜ん、、。 本人が行かなくてもいいんだぁ…。 そりゃ便利だねぇ。入管も行くの面倒くさいしねぇ。 僕は2年前 永住権取っちゃったから、もういいんだけどさぁ…」 そして最後に こう付け加えます。

 「困ってる人いっぱい知ってるから、紹介してあげるよ」

 新人行政書士の鈴木さんは、営業が成功したことに大満足。意気揚揚と帰って行ったのでした。



 前述のとおり、ブローカーにとって、自分の名前を出さなくてもよく、本人が出頭しなくてもいい『入管申請取次』は、偽装結婚などにも便利で 利用価値が高いものなのです。また、我々行政書士は、職権請求で戸籍謄本なども取得出来るため、そういったことでも利用したがる人間は多いように感じています

 私が言いたいことは、“特に日系人以外の外国人に関わる入管業務を行う上では、依頼人・仕事の本質を見抜き、選別することが重要だ”ということです。 昨今、前述のようなケース(海千山千の外国人に、開業したばかりの行政書士さんが振り回されているケース)が目立ちます。『依頼人を選ぶ』ことは益々重要になって来ています。 「とにかく入管業務をやってみたい!」 また特に、「『取り次ぎ』の件数を増やしたい!」 とお考えの方は、前述の通り 日系人(ブラジル等)の業務 の方へ進まれることを、お勧め致します(もちろん、日系人業務であれ気をつけるべきことはありますが…)。
 
 入管業務は、精神的余裕をもって始めてください。“『国際業務』という響きのカッコ良さ”に惑わされず、また精神的余裕があれば、上記のようなケースに巻き込まれることを防げると思います。 くれぐれも、利用されて入国管理局から『呼び出し状』を受けるようなことが無いようにしてください。ご自身の申請取次行政書士としての将来を、自分から潰してしまうようなことが無いようにしてください。入管と、私たち行政書士との信頼関係を築くため、入管実務に関わる一行政書士として、お願い致します。(2004年3月)







*『本人申請』のスタイルで 『虚偽申請』や『在留資格該当性が全く無いような申請』が多く出されている事実について

 これも入管業務に関わる行政書士として知っておいて頂きたいことですが、残念ながら とんでもない虚偽案件や、また、ブローカーなどが絡まず、ご本人に悪気が無くても、在留資格該当性が全くないような許可事例 が多く存在します。 薄々就労ビザには該当しないことを気づいていながらも、「周りもやってるしオレも…」という感じで申請するケース も多いと思います。 上述のように、その多くは『本人申請』の形で申請されているものです
(入国管理局の方が、これを見てくれているといいのですが…(^^;)。(尚、ここでも、正しくは『在留資格』ですが一般的に外国人の間でよく話されている『ヴィザ』という表現も使わせて頂きます)。

 例えば、1店舗しかないような飲食店(中華料理店など)の店長なのに、『人文知識・国際業務』の在留資格を取得している元文系留学生、溶接業など入管が単純作業従事者としている職に就いていながら、『技術』の在留資格を更新し続けているケース、普通のレストラン(ときに喫茶店のような)や 自国の料理とは全く関係ない店で 在留資格『技能』の期間更新を続けている、外国人調理師。稀に、そうした人間が同じ会社・店で何人も存在したり…
(入管は従業員リストをチェックしてないのか…(−−;)。 ブローカーが関わっているようなケースもありますが、本人や雇用主も「全く問題ない」と思って期間更新を続けているような場合 なども多いのです。 通常の更新時より審査が厳しい、例えば 3年伸長時の期間更新や永住許可申請の際に、入管から「在留資格に当たる仕事をしていないじゃないか」と指摘され、「何を今さら…」「寝耳に水でした」といった声を聞くことも、多々ございました。

 よく、こうした就労ヴィザ申請に関するご相談で、
「僕の友だちは こうした方法でヴィザ(人文知識・国際業務、技術、技能、企業内転勤、ときに投資・経営ヴィザ等)を取れているというのに、どうして 先生は 『取れない』 と言うんですか?」などと言われることがあります。既に入管案件を扱っている行政書士さんであれば、もう 経験されている、「そんなこと しょっちゅう言われてるよ」という方も、多いと思います。中には、「出来ないって? でも、現実に取れてる人いるじゃない? 先生の腕が悪いだけなんじゃないの?」などと言って来る人もいます(^^;。
 実際に『許可事例』が出ており、こちらもご説明に窮するところですよね。 明らかに在留資格該当性が無いようなケースであっても、知人がその条件で(あるいはもっと悪い条件で)ヴィザ(在留資格)を取れているのを見ていれば、「どうして僕は取れないの?」と言いたくなる気持ちも、納得出来ます。 ホント、つらいですよね(^^;? 
入国管理局の方々(私の場合、名古屋入国管理局の方々)にもご理解頂きたいのですが、我々申請取次行政書士は、日々こういうストレス も感じているのです。

 結局は 入国管理局の方々に、
「取り次ぎ」ではなく、『本人申請』でこそ、こうした案件が多く出されて来るものだということを再認識して頂き、厳正な(不公平感が起こらないような)審査をお願いするしかない と思うのですが…。
 そして、我々 行政書士として出来ることは、やはりご本人や雇用主など関係者の方々に、「それでは在留資格該当性が全く無い」、「違法である」、「ここを改善して申請すべきだ」といったご提案を、していくより他ないですよね。リスクがあることをご説明し、合法的な方向に持って行ってあげること。それこそが、我々行政書士の存在価値ではないでしょうか…。

 これは私個人の考えであり、他の考え方もあると思います。しかし私は、入管業務を本当の行政書士業務にしたい と考えています。今ははっきり言って、一部の先生が独占して行っている状態
(というより、一部の人に集中してしまうのだから仕方ないですが…)かと思います。 私は、そうではなく、例えば『建設業許可業務』のように、多くの行政書士が主たる業務として これに適正に関わり、外国人の方々の一助となり、合わせて入国管理局の方々の膨大な仕事量も軽減される というのが、理想だと思っています。そしてそのためには、まず何よりも 『申請取次ぎ者』として入国管理局 始め 関係機関の方々から、信頼を頂くことがとても重要だ と考えているのです。 上記につき、もしご賛同頂ければ、幸いです。(2004年10月)